2023年05月17日
  • SDGs推進企業紹介【連載】

「長野県SDGs推進企業」訪問(第7回/有限会社 わが家)

ここ数年、SDGsに関心を寄せ、取り組もうという企業が増えてきました。
国の取り組み推進もより加速してきています。
「長野県SDGs推進企業登録」は2019年4月26日に長野県により創設され、現在1,608の企業が登録しています。宮田村商工会会員企業も8社が登録をしています。

第7回目は「有限会社 わが家」です。

日常的に多世代が入り混じるわが家の施設

取材には、代表取締役の大石ひとみさん、職員の宮澤みどりさんと池上未都里さんにご対応いただきました。

有限会社 わが家の(左)宮澤みどりさん、(中央)代表取締役の大石ひとみさん、(右)池上未都里さん

1 会社の歴史、概要などを教えて下さい

平成16(2004)年創業。代表取締役の私、大石ひとみと宮澤優子の女性2人で有限会社わが家を立ち上げました。古民家を借りて宅幼老所「わが家」からスタートし、小規模多機能型居宅介護事業所「宅幼老所 あずま家」、住宅型有料老人ホーム「住まい処 よろず家」、小規模多機能型居宅介護サテライト「宅幼老所あずま家河原町」、住宅型有料老人ホーム 「メゾン河原町」、複合商業施設「オヒサマの森」と、利用者のニーズに合わせて開所してきました。
令和2(2020)年には、「宅幼老所わが家」を移転新築し、小規模多機能型居宅介護サテライトとしました。
「住み慣れた地域で最後まで」を現実化し、どんな方でも訪れていただける空間の提供を目指しています。介護を基盤とし、障がい者支援や託児、飲食店経営を行なう複合拠点です。町の中にあり、地域の方が気軽に立ち寄れ、その中で高齢者も障がい者も、子どもも動物もごちゃまぜになり過ごしています。

2 「長野県SDGs推進企業」認定はいつですか

令和3(2021)年1月に認定されました。
(大石)「SDGsを一緒に勉強しないか?」と村内企業の方から声をかけられ、学ぶところから始めました。職員のなかでSDGsに興味を持ってくれた宮澤さんと池上さんが、社内のSDGsの取り組みを担当してくれることになりました。

(池上)
最初は、SDGsと福祉・介護がどう関係しているかわからなかったのですが、学んでいくうちに「すべてはつながっているんだな」と感じて、だんだん腑に落ちていきました。ただ、どんな風に職員に広げていけるかの戸惑いはありました。最初はとっつきにくさを感じている職員もいましたが、「身近なことでいいんだ」という気づきが広がり、徐々に社内に浸透していきました。

(宮澤)
職員同士でグループワークをして、事業所で行っている取り組みをSDGsの項目にあてはめていきました。その後、今はできていないけれど、未来のありたい姿を思い描いて書き出しました。この活動を通して、できないかもしれないことも、言葉にしてみることが大切だと実感しました。
長野県のSDGsパートナーに認定されている企業の方にトレーナーとして定期的な指導をお願いし、池上さんと2人で学んで理解を深めたあとに、職員に向けて年3回研修を行って3年目になりました。

3 SDGsに向けた経営方針は

(大石)
弊社の理念「地域に根差した利用者本位のサービスの提供。それが、高齢者であり、小さな子供であり、障がい者であり、健常者でもある。私たちはこの村の福祉のよろずやでありたい」は、SDGsの「誰もが」、「誰一人取り残さない」、「住み慣れた地域で最後まで」のキーワードと繋がり、弊社が担う考えとしてこの社会的役割に社員みんなで取り組むことによりSDGsの達成に貢献していきます。
3年前からSDGsの言葉は知っていて、これからトレンドになり、企業の評価基準にもなると思っていました。まずは取り組むことを機に、色々なことが発信できればと考えました。私たちの福祉・介護の業態でも必要不可欠な考え方だと感じ、追求していくことにしました。ひとつに、福祉・介護業はまだまだイメージが良くないところがあるので、業界全体のイメージを上げたい思いもありました。
社としては、SDGsの取り組みを人事評価制度に組み込んでいます。

4 重点的な取組みについてお伺いします


(1) 重点的な取組1

「一人ひとりが看板となり、目の前のご利用者のつぶやきに手をさしのべられる組織の継続」
2030年に向けた指標:サービス評価の20%向上(初年)、以降5%ずつUPを目標

(宮澤)
「一人ひとりが看板」というのは、職員の個々人それぞれがサービスそのものという意味です。利用者さんの「〜したい」という思いを実現するために、小さなつぶやきを集めて、スタッフ間はもちろん、地域、民生委員、お隣の方などと連携して、利用者さんの介護計画「ライフサポートプラン」にのせケアの提供をしています。
小規模多機能型事業所では、地域運営推進会議の開催が義務付けられていますので、その場で出てきたサービス評価をパーセンテージに落とし込み、指標とさせていただいております。
伝え方は大切で、ただ伝えるだけではなく、どう受け取ったかをフォローしていく体制が必要だと感じています。人と人とのサービスなので、目に見えない分、 コミュニケーションを取り情報共有することが大切です。スタッフ間でもお互いを思いやる姿勢が大事だと思います。

(池上)
職員1人ひとりが会社の方針を背負っていけるように、新入社員だけでなく在職の職員に向けても研修に力をいれています。きちんと伝える体制により力をいれていこうという段階になっています。

実際に職場に子供を連れてきて働いてきた経験もあり、子育て世代の女性の働きやすさを実感してきたそう。

(2) 重点的な取組2

「子育て世代、アクティブシニア世代も働きやすい職場環境の構築」
2030年に向けた指標:子育て世代 30%アクティブシニア世代 30%の職員雇用率の維持

(宮澤)
子連れで出勤ができて、そのまま泊まりで宿直業務までできる事業所はなかなかないと思います。副次的効果としては、高齢者が子供を見守り、子供が高齢者を見守る関係性ができるのも嬉しいです。子供がくることで、利用者さんにいい影響を与えています。子供が何かにひっかかりそうになった時、いつも立たないじいちゃんが立った、なんてこともありました。
職員の子育て宣言や育児休業制度、介護休業制度の整備もして、職員の健康状態や家族環境に応じた柔軟な働き方ができる環境を整えています。

(池上)
私自身がわが家に就職したいと思った決め手は、職場に子供を連れてこれることでした。宿直も一緒に泊まって、巡視も一緒に回っていました。子供が一緒だから長い時間の勤務もできるので、女性の働きやすさや働く意欲の尊重、キャリアアップにつながると実感して、ありがたいと思っています。子供の頃から、車椅子に乗っていたり、介護ベッドで寝ている姿などの介護現場を見ていることは、いいことだと思います。

(大石)
利用者と同世代の職員が活躍しているのも魅力のひとつです。みるみられるという関係ではなく、お互いに会えるという気持ちもあるようです。また、職員が子供と一緒に泊まり勤務できる体制は、長野県では推奨されています。業界全体ではまだまだ少ないですね。経営の観点でいえば、人材確保の意味もありますし、子供たちが20年先に職業選択として福祉・介護業を選んでもらえるための布石になればとも思っています。


(3) 重点的な取組3

「保健・医療・福祉・商業を通じた住み続けたいまちづくり」
2030年に向けた指標:学校、福祉事業所、商店のマルシェ参加による地域の活性化。参加件数の増加。

(宮澤)
5年ほど前から、「オヒサマの森マルシェ」を開催してきました。弊社、利用者さんだけでなく地域の人が一緒に集うことが一番大切だと思っています。ただ、コロナ禍になってしまったので、難しいところもありました。そんな中でも、高齢になって出店が難しいおばあちゃんには出張所を作ってそこで出店してもらったり、近隣のキッチンカーの方に声をかけるなど、取り組みの幅を広げてきました。
他には、地域交流や仲間づくりの意味合いとして、「高齢者サロン」や「みんな食堂」などにも取り組んでいます。

5 重点的な取り組み以外でこれという取り組みがあったら教えて下さい

(宮澤)
個人個人の取り組みを明確にするために、自分のアクションプランを考え実行に移せるようにしています。買い物に行く時は歩いていこうとか、ネットで買わずに地元の商店で買おうとか。使わない照明は消す。食材は、必要な分だけ使う。といったすぐにでもできることから始め職場でできることも目標としています。

(池上)
アクションプランを策定してから、「家の残飯も減らそうかな」とか、自分の生活にも変化が出てきたという声も聞きます。例えば私なら、「女性の働きやすさ」という観点から、自分がここで働きやすくいるために、夫の理解を得るという目標を立てました。

(大石)
弊社の社員の9割は女性。必然的に責任者も女性になっていくので、彼女たちがどうすれば働きやすい環境になれるのかと考えました。誰であれ能力があれば、役職がある仕事に就いてもらいたいし、そんな当たり前のことが叶えられる職場にしたいと思っています。

6 ビジネス的なメリットを教えて下さい

(大石)
SDGsは、世界に通ずる概念です。わかりやすいところでいうと、取り組みを始めた時にHPも刷新したのですが、閲覧数が増えました。私たちのような小さな事業者が当たり前にやっている、日本の介護業態を世界に向けて発信することで、色々な波及効果があると思います。
高齢化社会のなかで、福祉・介護業においてトップランナーを担っている日本は、世界からも注目を浴びています。現に弊社には、外国人職員も働いていますし、同業種からは海外の視察が増えている声も聞きます。日本の現状は、世界の10年後に来る姿ともいわれています。だから私たちは、今できることに貪欲に取り組んで、何かの形でインバウンドとして呼び込みたい。都市型モデルと地方モデルの棲み分けをし、地方モデルとして確立していきたいです。
理念にもありますが、「福祉のよろずやでありたい」し、ちょっと発展させれば「地域のよろずやになりたい」と思っています。「困りごとがあれば、とりあえずなんでもきてみ」って思っています。できることはするし、できないことは他につなげる。一緒に考えてくれる仲間もいるので。福祉の言葉でいえば、地域包括支援センターの支店(ボランチ)になれればいいなと思っています。

<取材して印象に残ったこと>
わが家さんほど働く方々が同じ目線を持っている介護事業者に初めて出会いました。関わる全ての方々を地域のよろずやに変えてしまう、わが家さんにはそんな力があるのでは、と感じました。

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