2023年03月23日
  • SDGs推進企業紹介【連載】

「長野県SDGs推進企業」訪問(第3回/河井工器株式会社)

ここ数年、SDGsに関心を寄せ、取り組もうという企業が増えてきました。
国の取り組み推進もより加速してきています。
「長野県SDGs推進企業登録」は2019年4月26日に長野県により創設され、現在1,608の企業が登録しています。宮田村商工会会員企業も8社が登録をしています。

第3回目は「河井工器株式会社」です。


取材には、経営企画室室長の河井司さんにご対応いただきました。

経営企画室室長の河井司さん

1 会社の歴史、概要などを教えて下さい

約100年前、曽祖父が神奈川県から移住し、鍛冶屋を営んでいました。その後、祖父が金属の切削加工の会社を起こし、カメラのレンズまわりの部品製造を開始して、昭和26(1951)年、河井工器有限会社として会社を設立。昭和49(1974)年 に株式会社に変更しました。現在、父が2代目の代表取締役を務めています。

創業以来、カメラなどの光学系金属部品の製造を中心に事業展開してきましたが、最近では光学分野で培った超高精度切削技術を応用して、大型プロジェクタの部品、シネマカメラなどの高機能カメラ、医療機器、コネクタ、半導体部品など、さまざまな分野の製品を数多く取り扱っております。

100分の1㎜、1000分の1㎜といった蜘蛛の糸と同じくらいの精度で、機械の目となる部分を創っている仕事です。このような私たちの特化した技術を超精密切削加工と呼んでいます。

2 「長野県SDGs推進企業」認定はいつですか

2021年1月に認定されました。当社では創業当時からSDGsに通ずる考え方がありました。際たるものとして、ロゴマークに込められた思いがあります、創業当時、◯を2つ重ねた形のロゴマークが作られ、会社と従業員の両輪を示していて、「それぞれが力を合わせて会社として発展していきましょう」という願いが込められていたと聞きました。

3年前、東京で広告関係の仕事をしていた私がUターンし現職に就任した時に、ロゴマークや社長が認識している先代から伝え聞いているストーリーを含めて考え、「すべての人とのつながりを大切にする」という企業理念を明文化しました。その言葉自体は、SDGsの精神にも通じていると思っています。SDGsという制度がなくても、当社自体はこのような思いで70年やってきました。SDGsという今の世界的な取り組みが出てきたので、当社の取り組みを合わせて考えてみて、3つの重点的な取り組みを掲げました。

3 SDGsに向けた経営方針は

「すべての人とのつながりを大切にする」という企業理念自体がSDGsを表していると思っています。
企業の基盤は、そこで働く“人”が主人公であり続ける事であり、関わる人々や社会にどう貢献できるかを追求することです。関わる人すべてを大事にしていく。それが、地球全体を良くしていくと考えています。人というのは、取引先から最終顧客、従業員、地域の人たちなど、私たちに関わるすべてのステークホルダーです。当社の技術を通じていかに幸せにできるかというのが、当社の存在意義だと思っています。
当社で働く一人ひとりが、地球規模での社会や環境との調和を考えて自発的に行動することで、SDGsの目標達成に向けて貢献してまいります。

4 重点的な取組みについてお伺いします

(1) 重点的な取組1

「温室効果ガス(CO2)排出量の削減」
2030年に向けた指標:CO2排出量20%削減(2018年:129.5t-CO2、2030年:103.6t-CO2)

令和2(2020)年にエコアクション21に認定登録をさせていただきました。取得した理由は、環境負荷の低減が製造業に求められている義務であることは間違いない確信があったからです。今まで、資源をあるだけ使い、大量生産大量消費が善しとされてきた時代がありましたが、それは終わりました。今は、いかに高付加価値なものを良いタイミングで必要としている人に適宜届けていくか。また、売りっぱなしではなくメンテナンスし、再利用していく。ひとつのものを作って、そこからさらに価値を引き出し、価値を循環させていくのが非常に大事だと思います。エコアクション21という制度は、PDCAを回していく上では有効なツールになると思いました。

現在、毎年CO2の排出量を最低1%削減、努力目標は2%削減です。使う機械を選んだり、工場の壁にカーテンを付けて断熱処理を施したりと工夫しています。材質として扱っているアルミは、夏でも冬でも常に22-23度で温度管理を設定しなければいけないので、いかに電力を使わないように工夫ができるかを考えています。

ゴミの排出もそうで、コピー紙の裏紙を使い、新聞紙は梱包材にしています。工場の蛍光灯はひとつずつスイッチがあり、10分の休憩時間も消すようにしています。これは、もう昭和時代から続けている習慣です。

(2) 重点的な取組2

「ダイバーシティ経営の実現」
2030年に向けた指標:
女性、高齢者(65歳以上)、障碍者、外国人の活躍を支援(2020年→2030年目標値)
① 女性(25%→40%)
② 高齢者(10%→15%)
③ 障碍者(0%→5%)
④ 外国人(5%→15%)

重点取り組みのなかでは、これが一番肝になっています。現在でも当社は、18歳から79歳(社長は74歳)の幅広いスタッフが働いています。79歳の方は手動で切削することができ、手の感覚で100分の2ミリくらいまではわかるそうです。

技術が一番大切な業界なので、伝承していかなければなりません。機械がいくら新しくなっても、気象条件や製造条件をみて、経験と知見、技能を積んで判断するしかない。その技術を次世代に伝承し、強化していかなければ、当社は生き残れないと思っています。コミュニケーションも大切なので、お昼の時には食堂で、10代から70代までが一緒に食事をしたり、休憩時にお茶を飲んだりしながら交流しています。

また、女性、障碍者、外国人の方の採用も積極的に行なっていきます。現在、フィリピン出身の外国人が1人いて、在職10年になります。さまざまな価値観を持った人たちに長い間活躍してもらい、技術を上げ続けてもらって、また伝えていってもらうのが一番いい形だと思っています。

(3) 重点的な取組3

「有給取得率の増加」
2030年に向けた指標:2030年までに80%以上

一番大切なのは、生産性を上げていくことです。長く働いてそれが成果につながるかといえば、決してそうではない。究極は、働く時間を少なくして利益が上がれば会社としては問題がありません。会社として、何か目標がないとそういう働き方に達しないと思っているので、あえて高い数字を掲げています。「会社の生産性向上」、「従業員自身がライフワークバランスを考えるための警鐘を鳴らす」の2つのことを従業員1人ひとりが考えるきっかけになればいいと考えています。

人間は経験以上のことはできないので、良いアウトプットを引き出すためには、良いインプットが必要だと思っています。職人の能力は一言でいうと、感性。当社では感性がないと機械に使われるだけの仕事になってしまう。その感性を磨くためには、色々なものから影響を受けなければいけないので、有給休暇を使って色々経験し、心を豊かにしてほしいと思っています。

5 重点的な取り組み以外でこれという取り組みがあったら教えて下さい

地域社会との関わりを大事にしています。例えば、地元の小学生に見学にきてもらっています。企業も、ここに暮らす住人でもありますし、従業員にとってみたら生活インフラのひとつであることも、存在意義だと思います。去年入ってきた新入社員は、小学生の頃から当社の前を通学路で通っていたそうで、第一志望で入社してくれました。これからの時代を担っていく若い世代や子供たちに、当社だけではなく地域のなかの産業や仕事を知り、働くって何かを理解してもらうことに意義があると思っているので、見学などは積極的に受けるようにしています。

他には、1〜3年目の若手を社内の改善委員に任命しています。「会社がもっと良くなるために、何でもいいので気がついたことに対して、自分で考えて行動を起こして報告してください」ということをやっています。自主性と実行力を上げるためにやっていますが、一定の効果が出ています。工程が改善され無駄が省かれたり、整理整頓が進んだり、事故防止のアイデアがでたりしています。

6 ビジネス的なメリットを教えて下さい

SDGsは当社の企業理念を具現化し、社内外へ発信するためのツールのひとつです。

特にこれからの時代を担っていく若い世代をどう育てていくかが、日本全体の製造業の最重要課題だと思っています。いかに今の強みを守りながら、若い世代に伝えアップデートしていけるか。高い技術力を求められる分野は、日本の最後の砦ではないかと思います。

それをSDGsという文脈に添わせたい。循環型を掲げていますが、会社を豊かにすることはこの国や世界を豊かにすることにつながり、関わるすべての人たちが幸せになることでもあると思います。

技術の循環、人の循環、富の循環、資源の循環。今あるものを守り、改善や強化しながらやっていくのが大事で、それが当社が70年間やってこられたそのものだと思っています。

 

<取材して印象に残ったこと>
製造業の日本における意味合いや、地域に根ざした企業の役割などを深くご理解されており、ご自身の言葉で従業員の方々や地域に対して伝えていらっしゃる姿が印象的でした。

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